JJF VOICE Vol.3 – アーツアンドクラフツ株式会社
ものづくりを応援したい
宝飾業界へ異例の参入の裏側
―アーツアンドクラフツ株式会社 取締役ジュエリー事業部長
吉田貞信さんインタビュー
左から)取締役B2B事業部長 平田久郎、取締役管理本部長兼CTO 三浦一生、代表取締役社長 宮崎晋之介、取締役ジュエリー事業部長 吉田貞信
2014年に製造小売業としてジュエリー業界へ参入したアーツアンドクラフツ株式会社。ブライダルジュエリーブランド“ith(イズ)”は業界初の担当制、オーダーメイド、オンライン集客を強みに店舗数を増やしている。
ジュエリー業界では異例の広告、コンサルやITを出自とするメンバーが集う同社。ものづくりに資するという一念を掲げ、様々な事業を産み出す分野へ進出。Arts and Craftsと名のとおり、ものづくりとテクノロジーを調和させるべく、新たな価値創造へ挑戦し続ける吉田さん。その思いをインタビューにて伺いました。
―吉田さんはもともと別の業界で働いていた経験をお持ちですが、どのようにしてジュエリー業界への参入を決めたのでしょうか?また、ジュエリー業界で成功している秘訣はなんだと思いますか?
現在の創業メンバーで起業するための事業テーマを検討していくなかで、ITの出現により世界中の誰もが国境を超えつながり情報発信できる社会の到来を迎え、個人の表現や思いをカタチにして発信できる何か、を探していました。
そんな折にツテを通じジュエリー業界の話を聞きました。ジュエリーが個人の表現活動であることや、グローバルな商取引がなされている業界であることを知り、私たちが取り組んでいく価値があるように感じました。
また業界外の人間からするとジュエリー業界は情報が出回りにくく、参入障壁が高く感じられることも、意思決定のうえでの重要なファクターだと考えました。
私たち創業メンバーは広告やIT業界を出身にしており、ジュエリー業界のプロと異業種、異業界のプロがうまく調和・協力しながら、事業を推進してきました。業界のセオリーを知りつつ、そのセオリーを全く別角度から見ることで新しい事業機会が見えてきます。そこから構想を具体化し、実践に落とし込んでいくためには、業界のセオリーが欠かせません。常識と非常識をうまく調和させながら進んできたことで、今があると考えています。
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写真)ブライダルジュエリーブランド”ith"
―貴社実施のオーダーメイドのブライダルリング(担当制)は、ブライダル業界で改めて始めた点では、業界初だと思います。
担当制にした理由を教えてください。
”ith(イズ)”というブランドの原点が、ひとりの女性職人(現代表の高橋亜結)が接客・製作・納品もする、個人工房のスタイルにあることが、第一の理由です。
事業の成長とともに人数が増えてきたなかでも、ithというブランドとしての個性と同時に、私たち自身にも個性があります。個々がブランドの体現者であるという意識を大事にしたい、という思いから今でも担当制を続けています。法人営業であれば、個人がクライアントの担当としてつくことは当たり前ですので、自分自身の経験上からも違和感はありません。
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――インターネットで貴社ブランド検索をかけた後も、定期的に広告が出るようになっています。効果的なPR方法などはどのようにして計測しているのでしょうか?オンライン集客は、ジュエリーとそのほかの商材ではどのように違うのでしょうか?
広告に関しては基本的にオンラインを軸に組み立てを行なっており、その評価等についてもオンラインで取得されるデータをベースとして行っています。
インターネット広告としては他業界も含めて実施されているベーシックな施策はほぼ実施していますが、毎週PDCAを回し何が効果的かを図り、広告を最適化するための判断やアクションの決定を行っています。
オンラインに限らず、広告に関する取り組み方はその業界や商材の利益率に大きく影響されます。その点からするとジュエリー業界自体は比較的広告費をかけやすい部類に入ります。ジュエリーは趣味嗜好性の高い商材であることから、消費者が持つ情報知識が少ない、その分消費者と事業者の間の知識ギャップが大きいということもあります。
オンライン集客ではそのことを踏まえたうえで、適切な情報と表現で発信するのかを考えていく必要性があります。
―会社の発足以来、最も大きな成果は何だったと考えますか?今後の新製品や新ブランド展開の予定があれば教えてください。
ithというブランドの運営を通じ、顧客の経験価値をいかに醸成させるためのブランド構築ノウハウ、さらにそれを支えるものづくりの体制を獲得・構築できました。
またジュエリー業界のプロと業界外のプロなど、様々な個性を持つ人間が集まり、協調しながら成果を上げ、個性と多様性が価値を生み出すことができることにも、自信を持つことができました。これらのことが今後の5〜10年の事業発展にとって、大きな財産となると考えています。
具体的には、これまでの事業経験を通じて得た「ブランド資産を活かした新規店舗・商材の展開」、それから「ブランド構築のノウハウ(ブランディング、IT・SNSの活用方法、社員教育や研修、など)」を他の事業者様向けに提供していくことを積極的に進め、ジュエリー業界に貢献できればと考えています。
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写真)取締役ジュエリー事業部長 吉田貞信
―ビジネスで学んだ5つの教訓を教えてください。
1.ジュエリー業界の一般的なセオリー/考え方をよく知る
この業界に限らず、まずは業界のことをよく観察し、業界の仕組みや働く人たちの考え方をよく知ることが大事です。
業界の人が何を大事にして、何を問題と捉えているかを把握する。そこから、私たちが何をすべきで何ができるか、というヒントが見えてくるように思います。
2.”ジュエリー文化”という視点で、歴史や流れを把握する
ジュエリーには、長い時間をかけて築き上げられた歴史的な経緯や、文化的な流れがあります。そのなかでブランドや商品、パールやダイヤの素材の位置付けや意味合いを学び、理解することがとても重要だと感じています。
それは、ジュエリーというもの自体が「意味」を与えられてこそ、初めて価値を持つものだからです。
そのことを理解すると、目の前にあるブランドや商品の意味や価値それをいかに表現し伝えていくべきかの、手掛かりが得られるようになると考えています。
3.異業種からの視点でジュエリー業界の常識を疑う
古い歴史があるジュエリー業界だからこそ、そとからの目線で見てみる。すると、もう少しこうすれば良くなるのでは?他業界でできていることだから、こっちでもできるのでは?と感じることが多々あります。業界内の人が価値と感じていない部分でも、光のあて方を変えることで価値が高まり、新たな価値が生まれる可能性があります。
4.世の中の大きな流れ、文脈を理解する
世の中の流れや人々の価値観がどう変わっていっているのかを理解し、見定めながら事業に取り組むことが大事だと思います。ithは世の中の流れが全体から個へ、人々の嗜好がフォーマルからカジュアルへと変化している流れを踏まえ、ブランドアイデンティティを設定しました。
追い風もあれば向かい風もあります。大きな風向きを見定めながらやること、やらないことを決めていくことも大事だと思います。
5.誠実である
ジュエリーは金銀、宝石といった交換価値のある財としての側面に、「意味」という側面が加わり、はじめてその価値を発揮する商品だと思います。
近年特にその傾向が強まるなか、業界に関わる一人の人間として顧客や取引先、社会に対して誠実であろうとすることが、なによりも大切なのでないかと思います。
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―お話を聞かせていただき、どうもありがとうございました!
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おわりに
2019年度JJFにて、セミナ―講演を担当していただいた吉田さん。異業種での経験を生かしたマーケティング手法や、別視点からの業界考察は非常に興味深い点が多くありました。
個人的な話になりますが、私の友人がithでブライダルリングをオーダーし、出来上がりに喜んでいた姿が印象的です。それぞれの想いをかたちにすることは、決して簡単なことではないと思います。そのなかで常に変化をし続け、着実に成長をしていくブランドとして、目が離せないですね。今後のブランド展開にも注目です。
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記事:インフォーマ マーケッツ ジャパン株式会社 櫻井宏美
アーツアンドクラフツ株式会社
Web:https://www.arts-crafts.co.jp/